モンゴルという国について、モンゴルの馬について、皆さんが初めに知ったのはいつのことでしょうか?
それは世界史の授業で習ったチンギス・ハーンという人物からかもしれませんし、もっと大人になって旅行雑誌を開いてモンゴルという国を知ったのははじめかもしれません。
私は小学生のとき、モンゴルの馬を題材にした絵本が最初でした。
近いようで遠い国モンゴル。
騎馬民族が暮らすその国は、私たちが考える人間と馬以上の絆があります。
そんな知られざるモンゴルの馬についての7つの真実を覗いてみましょう。
1.モンゴルの馬の持つ5500年の歴史
まずはモンゴル馬の歴史を紐解いてみましょう。
モンゴル馬の正式名称はモウコノウマもしくはプシバルスキーウマといいます。
漢字で書くと「蒙古野馬」となり、意味は野生の馬。少し前まではシマウマとノロバの仲間を除けば唯一の野生種の馬であるとされていました。しかし近年になって、野生種の馬はすでに絶滅しておりモウノコウマも、さかのぼること約5500年前に現在のカザフスタンで飼われていた馬が逃げ出し、その後野生化した馬がご先祖にあたることが明らかになりました。
いずれにせよ、とても歴史のある馬ということがわかります。そして野生のモウノコウマは絶滅危惧種にも指定されており、その希少さから各国で繁殖し頭数を増やそうと努力がなされています。日本のいくつかの動物園でも、モウノコウマに出会うことができますよ。
2.モウノコウマの特徴とは?
騎馬民族が乗る馬というと、私たちがパッと思い浮かぶのは凛々しくて大きなサラブレットかもしれません。しかし実は、モウノコウマは一般的な馬と比べると、とてもかわいらしいサイズです。
彼らの体高は1.2m~1.4mほどで、体重は200~300㎏になります。
体高とは?体長の違いでは?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、実は馬の体の大きさをはかり方は少し特殊で、地面から肩の一番高いところまでを測るのです。ちなみに一般的に有名なサラブレットの体高は1.6~1.7mで体重は450~500㎏ということなので、比較するとモウノコウマはポニーほどの大きさだとわかります。別名モンゴル・ポニーとも呼ばれているんですよ。
とはいえ、モウノコウマは大きさは小さいものの、筋肉質でがっちりとした体を持っています。
背中に鰻線(まんせん)と呼ばれる鬣(たてがみ)から尻尾まで続く毛色の違う線が通っており、これは原種に近い馬のみが持つ特徴の一つと言われています。頭から背中にかけて生えている鬣は短く、しっかり立っていることも特徴の一つです。
毛色はベージュもしくは赤茶で、鼻の周りとお腹の白い毛がモウノコウマのたくましくもかわいらしい見た目を彩っています。
3.人と動物を超えた関係
さて上記にご紹介した野生馬モウノコウマは、モンゴル語でタヒ(精霊)という意味で呼ばれており、早々お目にかかれません。
とはいえ、モンゴルの人々と馬の結びつきは強く日常生活の要としてたくさんの馬が飼育されています。
モンゴル=騎馬民族というイメージをお持ちの方も多いことでしょう。彼らにとって馬はただの動物や家畜ではないのです。
モンゴル語には「馬宝」と呼ばれる言葉があります。漢字の通り、人々は馬を宝物のように大切にしています。日常を支えるための欠かせない存在というだけでなく、馬は民族の誇りであり繁栄のシンボルとなっているのです。
4.牛乳じゃない!馬のミルクで始まる一日
モンゴルの食生活からも、馬がどれだけ密接に生活にかかわっているのかがわかります。
日本では毎日飲むミルクは牛乳が日常ですが、モンゴルのスタンダードは違います。馬からとれる新鮮なミルクで一日が始まります。
モンゴル人は馬乳を使いお酒を作ったり料理をしたりと、食事の中にはどこかに馬のミルクがいます。特に夏は白い食べ物(乳製品)を食べてその季節を過ごすのだとか。
中でも馬乳酒と呼ばれるお酒は、現地ではアイラグとよばれ国民にとって欠かせないものになっています。
調べてみるとアイラグは、日本人にもおなじみのカルピスの原点とも呼ばれる飲み物で、夏になるとウランバートルの屋台で150円ほどで気軽に飲むことができるようです。発酵食品なので酸っぱく、苦みもあるそうですがはまってしまう人が多いのだとか。
また馬をはじめ、いろいろなミルクから作るのが「アーロール」という乾燥チーズ。チーズとして食べるといまいち、でもヨーグルトとして食べれば酸味がありおいしいのだとか。余すところなく乳製品を使い尽くすこの精神、素敵です!
5.馬に名前はつけません!
我が家にペットが新しい家族がやってきたら、まず何をしますか?多くの人はペットの印象や自分の好きなものをとって名前をつけることでしょう。それがまず初めに送られる愛情の一つの形でもありますね。
しかしモンゴル人は、意外なことに飼っている馬に名前を付けることはしないようです。
ではどのようにたくさんの馬の中から、一頭一頭見分けていくのでしょうか。
それは毛色。モンゴル語には驚くほど馬の毛の色を表す言葉が多いのです。その数、基本色で20種類。
そしてさらに細かく見分けるために、その馬の特徴のある部分の呼び方や年齢、性別を組み合わせるとなんと120通り以上の馬の呼び方が生まれるというのだから驚きです。
たとえ名前を付けなくても、一頭一頭の性格や特徴をよく知っているからこその組み合わせ名称が生まれるというのは、心から馬を愛していなければできないことですね。単に名前を付けるよりも、深い深い愛と絆を感じます。
馬と共に生きる、とはどういうことなのかこの文化からも学ばされますね。
6.年に一度の競馬
モンゴルは古代より騎馬民族として知られています。そしてその伝統は先祖から子孫へと受け継がれていくのですが、その一つとして毎年7月に行われ続けているのがナーダム祭り。国を挙げてのお祭りに参加するため、国中から首都ウランバートルに人々が集まってきます。
このナーダム祭りは3日間催されるのですが、特に注目されるのはモンゴル馬による競馬。しかもただの競馬ではありません。騎乗するのは12歳以下の子供たち。このレースに参加することは大人になるための登竜門になっているのです。
とはいえ、このレースは私たちが想像するような生易しいものではありません。夜明けとともに準備を始め、そして25㎞ほど離れたスタート地点まで馬を走らせ、ゴールまでの35㎞までの道のりを全速力で駆けるのです!
参加する子供たちは約500人といわれ、子供たちが操る馬があげる砂ぼこりはモンゴルの人々にとって幸せと繁栄をもたらすといわれています。
この長距離レースを幼い子供たちが完走するだけでもすごいことですが、参加する子供たちはもちろん優勝を狙っています。この日のために何か月も前から馬術を磨き、馬との向き合い方を学び、馬と共に成長していくのです。挫折と成長を繰り返して、たくましい騎馬民族の血は受け継がれてゆくのです。
7.馬の頭を持つモンゴル特有の楽器
馬頭琴。この楽器をご存じの方は多いのではないでしょうか。
私がモンゴルと馬の結びつきを最初に知ったきっかけの話「スーホの白い馬」。小学生の国語の教科書に載っていたこの民話を読んで、私は号泣しそれからこの馬頭琴という楽器がたまらなく愛しくなりました。
この楽器は2本の弦と、馬のしっぽの毛を使っている弓、さらに楽器の竿部分には馬の頭の形をしています。
音はまるでバイオリンのような音で、それでいてバイオリンよりも粗めのまるで大自然を感じるような音がします。
馬頭琴(モンゴル語ではモリン・ホールとよばれる)は2000年の歴史があり、これまで何度も絶滅の危機に瀕してきましたが、それを乗り越え現代にまで伝わっています。
そもそも馬頭琴は、騎馬民族モンゴル人の象徴ともいえるもので、子供たちは乗馬とともに馬頭琴を必死に練習し大人へと成長していきます。モンゴルの人々にとってこの楽器はとても縁起のよいものです。馬頭琴を演奏すると、弾いた家に幸運が訪れるとされているので宴会やお祝い事で引かれることも多く、人々の暮らしに密接にかかわっています。さらに「幸運」のことを「ヒーモリ」(風の馬)とモンゴル語では言うそうですが、そうした言葉からも、どれほど人々が馬を大切に思い尊敬しているかもわかりますね。
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