アフリカではゾウの密猟が頻発していますが、いったいなぜ密猟は起こってしまうのでしょうか。これまでどんな対策が取られているのでしょうか。
悲しいゾウの密猟という問題について、改めて考えるべき点を分かりやすく7章でまとめました。
1章:なぜゾウの密猟は起こるのか
密猟という言葉はそもそもどんな定義なのでしょうか。
Wikipediaによると「国際間の協定や法令を無視して陸上の動物を採取する事」と定義されています。ペットとして、もしくは動物の一部のために不正に採取することを密猟と言います。ゾウに関していえばほとんどの確率で象牙を狙った密猟が、主にアフリカを中心に頻発しています。
なぜ密猟は発生してしまうのでしょうか。
原因はいくつかあるようですが、1つはアフリカの貧困という問題によります。
国が豊かであれば、人も動物も保護し大切にしようという動きが出やすくなるものですが、国自体が貧しく人を守るだけで精一杯もしくは国民すらも守れない状況であれば、おのずと野生動物は後回しに。
法の整備、政治家の汚職や国民の生活の苦しさや貧しさといった問題があります。
また2つ目の理由は、ゾウから象牙を取り海外に売ることで資金を得て内戦などの費用に充てるため。
ある情報によれば、コンゴと南スーダンの国境に位置するガランバ国立公園でテロリストグループの資金調達のために、ゾウの密猟が組織的に行われている、という疑いが出ています。ここでの密猟は組織的かつ計画的。テロリストの本拠地がある地区から密猟者たちがやってきて次々にゾウを殺し象牙を奪っていきます。
2章:ゾウの密猟による象牙はどこへ
密猟者の目的は、ゾウの白く長い牙。
ゾウを狩る人がいるのであれば、当然買う人がいるはずです。需要と供給が成り立っているからこそ、商売は成立します。
アフリカのマルミミゾウの長い牙はなんと1000万円の価値があるそう。その一頭を仕留めたら発展途上国においてどれほどの価値を意味するのでしょうか…。はかり知れない額です。その高額な象牙はどこに流れ、だれが買うのでしょうか。
その多くは、アジアです。アジアでは象牙は富の象徴といわれ、中国やタイで高額で取引されています。
経済成長によって裕福になった人々が、象牙製品をステータスシンボルとみなしこぞって買い求めるようになったため象牙の需要は加速してきました。象牙は材質が美しく加工も容易です。
英語でIvory(アイボリー)とは象牙を意味し、その色の美しさからアイボリーカラーはファッションでも好まれて使われています。人々が求める要因があることがうかがえます。
日本に住む私たちは無関係ではない
日本では、いまでこそ象牙は印鑑程度のイメージかもしれません。しkし、過去には、三味線のばちや工芸品にも多く使われていた時期もあったのです。実際1980年代までの日本は、世界最大の象牙輸入国であったとWWFは述べています。
WWFジャパンの野生生物取引調査部門のトラフィックは、2017年12月20日に発表した、報告書『IVORY TOWERS:日本の象牙の取引と国内市場の評価』の中で、日本の国内象牙市場が、近年、中国に向けた「違法輸出」の温床となっていることを指摘
さらには、こんな結果も出ているようです。
東京、大阪、京都の骨董市や観光エリアで実施した調査では、実に73%の販売者が象牙製品の海外への持ち出しは「構わない」と回答したほか、3都市のすべてで、外国人客やバイヤーによる象牙製品の購入が横行していることも明らかになりました。
今はインターネットの普及により、オークションやフリーマーケットなどでも象牙はひそかに取引されています。
象牙、密輸、犯罪。こうした物騒なワードは決して他人事ではありません。
3章:密猟にあってしまうゾウ達
アフリカのモザンビーク、ゴロンゴーザ国立公園においてある問題が起きています。ゾウに牙が生えず生まれてくる割合が格段に増えているというのです。これも密猟による弊害の一つです。
そもそもアフリカゾウにおいて牙がなく生まれてくるゾウの確率は2~4%ととても低いもの。しかし内戦が起き、象牙を資金源とする密猟によって牙のあるゾウは殺され、牙のないゾウが生き残る確率が格段に増えていきました。
牙のないゾウが繁殖しその遺伝子が子供に伝えられていったことから、内戦後なんと全体の51%が牙のないゾウという確率になってしまいました。
人間が自然界に与えた影響は、本当に大きなものです。
4章:密猟によって失われてしまうゾウの群れ
密猟による弊害として、さらに深刻な事態を招くのはリーダーのゾウが殺されることによって起こる群れの消失です。
ゾウは年老いたメスが、群れのリーダーを務めるという少々変わった社会を築いています。オスは一頭で生活するか、オスだけの緩い社会を築きます。そのため、群れをまとめるのは年を取り経験を積んだメスのゾウ。
野生のゾウたちは、生きていくためにたくさんの困難を乗り越えなければいけません。
例えば、人間の住む場所から離れること、餌場の確保、川の渡り方を学ぶこと、危険な場所の回避など。幼いゾウたちが安全に大人になっていけるかどうかは、このリーダーの記憶力にかかっている、といっても過言ではありません。
このリーダーのゾウはコンタクトコールと呼ばれる低音のゾウの鳴き声を100頭以上聞き分けることができるので、近くにいるゾウが仲間なのかそうでないのかを賢く聞き分けます。
しかし、群れの「ブレーン」であるゾウが密猟者によって撃ち殺されてしまうと残されたゾウ達は行き場をなくしてしまいます。どこに行って水を飲み、草を食べ、人間がどこに住んでいるのかもよくわかりません。人間でいうなら、初めて行く国で突然ガイドとはぐれてしまったような状況。
大人のゾウ達は個々で生き残ることも可能かもしれません。しかし、5歳以下の若いゾウ達はリーダーをなくすことで一緒に死んでしまうことも多々あります。象牙を捕るということは、ただ1頭のゾウを殺すだけではありません。背後にいるたくさんのゾウも一緒に虐殺することと同義なのです。
5章:密猟とゾウを守る対策は?
1973年からワシントン条約によって国際取引が制限され、アフリカゾウは保護対象になっています。
ワシントン条約とは、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約です。アメリカのワシントンD.Cに81カ国が集まり作られました。2020年7月時点では、138カ国が加盟しています。
この条約にはⅠ、Ⅱ、Ⅲの三種類のグループがあります。絶滅が最も危惧されるⅠにおいては商業用すべての取引が禁止されています。
本来であれば種ごとに分類されるものですが、アフリカゾウは特殊な分類がされています。ゾウが生息する国ごとにⅠかⅡのどちらかに分類されるように決められているのです。それはなぜでしょうか?
6章:アフリカ諸国のゾウに対する意見の分裂
現在、アフリカの37カ国にアフリカゾウが生息しているといわれています。
密猟によってゾウの数が激変したのは主に東部のケニアやタンザニアでした。1970年代から80年代に激増した密輸によって、IUCNは1987年に世界に流通している象牙の4分の3が密猟に由来すると発表。世界は衝撃を受けました。
アフリカ東部諸国が世界に現状を訴えたこともあり、アフリカゾウはワシントン条約の最も絶滅の危険性があるIに分類されることとなりました。
しかし、それから10年たち、南部のアフリカ諸国が声を上げ始めます。比較的密猟の被害が少なかった南部では、ゾウが増えすぎ農園や人の居住区を襲って被害が出たり、象牙やゾウの皮、ゾウの肉の輸出が出来なくなったことで経済的に大きな打撃をうけるという事態が起きたのです。
また、比較的ゾウの個体数が安定しているため、国の自然資源として象牙を輸出し経済を回すための権利を、ワシントン条約締約国会議に求めました。
もはや、ゾウの密猟に悩む東部とゾウの被害と経済に悩む南部を同じ基準で語ることはできなくなりました。そのため現在ワシントン条約ではボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国、ジンバブエ の4カ国のアフリカゾウは分類Ⅱとし、制限付きの輸出が認められることとなりました。
とはいえ、その後再びゾウの密猟が加速し多くのアフリカゾウが殺されてしまう事態に。そのため、2016年には、ワシントン条約の締結国会議で「ゾウの密猟や、象牙の違法取引に関与している国内市場については、閉鎖(つまり国内の商業取引を停止する)を求める」という勧告の追加が決定されました。
一向になくならない密猟と密輸。世界各国は取り締まりを一層強化しています。
7章:密猟からゾウを守るレンジャーたち
国と世界が条約を定めたとしても、悲しいことに密猟者はいなくなりません。
密猟者と日々闘っているレンジャーたちがアフリカにはいます。密猟者とレンジャーの戦いは、まさに戦争。銃弾が飛び交い、少なからず血が流れます。
年間2万頭のゾウが殺されているアフリカで、レンジャーたちは低賃金ながらも命がけで働いています。2007年~2017年の10年間で約1000人のレンジャーが命を落としました。まだまだ、レンジャーという存在の認知が低いため、資金が足りずそれによって訓練や装備が不足し、任務遂行に支障をきたすこともあります。
それでも、彼らの働きによって幾つかの野生動物たちの個体数は回復傾向にあることも報告されています。
7月31日は「世界レンジャーの日」です。
第一線で野生動物を命がけで守ってくれているレンジャーたちに感謝できる、またとない機会かもしれません。
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