フランス、サン=テティエンヌのダゲール通り54番地と56番地に位置するのが、こちら。2つの建物があり、それらはまとめて「Chalets de Bizillon(シャレ ドゥ ビズィヨン)」または「Maisons sans escalier(メゾン ソン ゼスカリエ)」と呼ばれています。
ちなみに、細かい話ですが、シャレはフランス語で「山小屋」の意味です。何故山小屋なのかについては、色々調べてもわかりませんでしたが、このサン=テティエンヌが山のある地域(オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏)にあることから…かもしれません。ビズィヨンはフランス語を話せる(ネイティブ)妻に聞きましたが「何それ?」だったので、ともすると、地区の名前です。エスカリエ(上にある「ソン ゼスカリエ」の部分はリエゾンという、言葉がつながる発音方法になっています)は「階段」を意味し「メゾン ソン ゼスカリエ」は「階段のない家」です。
Useful source: TripAdvisor, Guggenheim, Maisons sans escalier
外見だけでは、街並みに溶け込み、特に個性は感じません。外から見たら、ただの、何の変哲も無い建物です。手品でよく使われるフレーズですが…「何の変哲もない」と言われるほど「何か」が隠されているもの。
それでは「Les Chalets de Bizillon(シャレ ドゥ ビズィヨン)」の中を覗いてみましょう。建築好き、不思議な世界観がたまらない…という人に、特にご紹介したい光景です。
1階には屋内庭園があり、そこからの階段のつくりが秀逸。なんと6階建ての建物全体の「階段の役割を果たすもの」が、ぐるぐるとらせん状のスロープになっています。私たちのおなじみのカクカクした階段にさよなら。
異世界。そんな言葉がぴったり。
この作品を作りあげたのは、フランス人の建築家Auguste Bossu(オギュスト・ボス)です。彼は、ありきたりな階段を廃れた時代遅れとみなし、らせん状のスロープの調和した建物を構想しました。この興味深い建築デザインについて、本人は次のように語っています。
「階段のない家は未来の家。階段は最も遅れた階を行き来する方法でしょう。階段は子供から高齢者、病気を持った人から健康な人まで、全ての人に同じ歩調を強要します。斜面であれば、大股でも小股でも、速くても遅くても、歩道を歩くのと同じように誰もが自分のペースで登ることができます」
誰もが、自分のペースで登る。人生に通じる哲学を感じます。社会に決められた道を、よいとされるペースで歩む。そんな日々に対する疑問提起になるかもしれません。
何だか、やさしい。「カドのない」思考を感じますね。
このらせん状のスロープは、戦争中のフランスの創意工夫の能力や創造に対する自由の象徴でもあります。1959年には、フランク・ロイド・ライトがニューヨークのかの有名なソロモン・R・グッゲンハイム美術館を構想する際のインスピレーションにもなっています。
ちなみに、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館は以下の通りです。
▼まずは外観がこんな感じ。もう「丸み」が伝わってきますね。
▼中に入ると、こうです。もう、どう見ても、インスピレーションの仕業。
ニューヨークにある、かの有名なソロモン・R・グッゲンハイム美術館のことを知っている人でも、創造のもとになった、「Chalets de Bizillon/シャレ ドゥ ビズィヨン」(又の名を「Maisons sans escalier/メゾン ソン ゼスカリエ」)についての知識のある人は、なかなかいないはず。
美しき場所は、世界のどこかにある、また別の美しき場所を呼ぶものですね。
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