英語で「tool」というと、日本語では「ツール」や「道具」といったところでしょう。基本的な単語です。これの日本語訳については(通常は)難しいことはありません。今回は、そんな「tool」について危惧している(そして…ムズムズを感じている)ことがあります。それが、IT系の英語の文章における「tool」という単語の使いすぎ問題です。
どんな場面で「tool」が使われすぎているのか
いきなり「“tool”という言葉が使われすぎているんです!」…と訴えても、おそらく9割の日本人の方から「はい?何言ってるの?」という冷ややかな反応をされることでしょう。ちょっとだけお時間を頂いて、ちゃんと説明させてください。
IT系の文章を英語で日常的に(ほぼ毎日)読んでいるのですが、「tool」が多すぎて、イラッとしています(大変興味深い傾向なのですが)。例として、こんな具合です。
This tool enables you to expand… along with a versatile editing tool…
「このツールを使えば…の拡張ができ…多機能な編集ツールも搭載しています」といった具合になります。何か気づきませんか?そもそも、「このツールは」で始まっているので、この文章は、“あるツールについての話”です。そして、その中に「編集ツール」なるものが搭載されているのです。気持ち悪くありませんか?これこそが「ツール濫用問題」の核心です。
そんな文章を日本語に訳すことがあるのですが…言うまでもなく、全て「ツール」にすると、恐ろしく気持ちの悪い日本語になります。もちろん、書き手による癖やスタイルも影響しますが、私自身、多くのIT系の文章で「ツールの使いすぎ」問題を目にしてきました。
英語圏と日本語圏の違い
先の例は非常にわかりすくムズムズさせてくれる文章ですが、このような「toolという言葉が便利すぎて、過剰に使ってしまう」傾向は、日本語よりも英語での文章に多いように感じます。
日本語でこれだけ「ツール」を連呼したら、明らかに不自然ですが、英語の文章では(日本語でやってしまう場合に比べればいくぶん)気づかれない、不自然でない、ということでしょう。(それだとしても当然限度はあるはずです…)
「tool」の中に「tool」が出現しがち
あくまでもこれまでの私の経験から思うことですが、英語のIT系の文章では、ソフトウェアなどに対して「tool」という言葉が当てられたにもかかわらず、その中にある機能についても「tool」という表現が使われる傾向にあるようです。
冗長で気持ちが悪いが目にすることはある
これは、非常に興味深い傾向ですね。例えば、画像編集ソフト自体を「tool」と呼ぶことができ、そのソフトの中にある背景透過機能のことを「tool」と呼ぶこともできるということ。これのせいで(書き手が気をつけないと)「tool」の中に「tool(多くの場合“tools”)」という、冗長な記述になってしまうのです。
機能をツールと表現する
英語圏では、機能(日本語で言うとことの「機能」)のことを、個別の独立した「tool」として表現することがよくあります。ですので「it comes with many handy tools such as…」のような表現で、あるソフトウェア(はたまたWordPressのプラグインなどもしかり)に搭載されている機能が説明されるのは日常茶飯事です。
私たち日本人が解釈する際には要注意
日本人的な解釈だと、ソフトウェアの中にある機能(例えば、背景透過、画像切り抜きなど…) は「機能」であり「tool(ツール)」ではないと考えるのが一般的です。これに対して、英語圏では(それが、独立した別のツールかのように)「tool」と表現されることが普通にあるので…日本人が解釈や翻訳をする際には、気をつけたいものです。
「tool」にまどわされない翻訳
翻訳の際には、例えばこんな理解で、惑わされずに、落ち着いて対処することができます。
- 英語の「tool」の中には、日本語の「機能」を意味するものがある
- そんな場合には「…という機能がある」といった程度に訳すと自然
- 特に「ツール」の中に「ツール」がある場合には必須
英語と日本語の表現の違いがあるので、このような切り替えや臨機応変の対応はしかたがないことです。
他にも似たような傾向として、こんな表現もあります。
gives you the ability to…
なんだか大それた表現のような気がしますが、実際にこんな感じのものは目にします。もちろん「…をする能力が手に入る(←ワンピース風?)」なんて日本語訳はしません。「…ができるようになる、できる」程度で十分です。それを表現するだけなのに、英語の字面を見ると、非常に仰々しい印象を受けてしまいますよね。
さいごに
「英語って、そういうものじゃん」と言われたら、私はただ、うなずいて、黙ることしかできません。ただ、その違いを敢えて表現して、どこかの誰かに共感してもらえるかもしれないという淡い期待を込めるのもまた、気分がいいものです。
「tool」の中に「tool(s)」という記述に出会うたびに、ゾワゾワを隠せませんが、このような気づきが蓄積していくのは面白く、言葉を学ぶ上での醍醐味だと言えるかもしれません。
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